あ、無理です
オークに、そんな良識的(?)価値判断が存在することを、この時点で初めて知った──下手をすれば、このオークたちが競技として、近隣の人間の集落や、村々を襲い始めたり、オーク同士の戦火が飛び火して、巻き込まれて行くイメージしか湧かなかっただけに
──ホッと胸を撫で下ろす。
「諸部族をまとめ上げる立場にある我らが、無体を押し付けて、どのオークが従うと言うのだ……」(……どうしよう。このオークさん。すっげぇ、まともな方だ)
話し疲れてきたのか──それとも強者として生まれついた苦悩からか、
ツォンカパは、溜息を洩らす。
「……我らオークの寿命は、一般に30年前後。この森で暮らすオークは、幾分長命ではあるが……我が命も、もう……そう長くはあるまい」どこを見るでもなく、遠い目で呟く。
「戦場で果てることこそが、オークの誉れ。狩りの獣に負わされる傷や、床で死を迎えるよりも……もののぐを携えた、強者との戦いの末に、屍を晒したかったが……叶わぬか……」(なんとかしてやりたいけど……。完全に俺の手に余る案件なんだよなぁ……コレ)
そして、力無くツォンカパは「……我らの言葉を解する人間よ」語りかけて来る。
「我と……」
「あ、無理です」
「………………」
続く言葉は想像がつく。
きっと、その言葉の後には「立ち会ってくれ」とかが、続いたに違いない。
「そもそも俺、もののぐなんて♬ そんな立派な物、持ってませんし♪」
さもバカバカしい、話にもならない輩との話であるように明るい声で。……申し訳無いが、少しでも期待を持たせる訳には行かない。俺が痛い思いをする。
「それは……もののぐを、コチラで用意すれば……良し……と言うことか?」何故だか……ツォンカパの両目に……かすかな光が点る「用意しよう。させて貰う」……なんて迷惑な。




