海中を伝わる一撃の音
海中に拡がる何十本もの、使いの触手の中央に――海面から射す明かりに反射して、ヴィルマのビキニ状の衣装が光ったのが見えた。大急ぎで泳いで向かおうとすると、俺も彼女と同じ様に触腕に捕らえられ、左右に大きく離れた目による視野角による行動なのか――触手を束ねた根元部分、頭部に当たる部分と言うのか? フルフェイス・ヘルメットのバイザー状の甲部分へと、観察するためか――ゆっくりと運ばれた。
意外なほど、この「使い」と言う存在の触手の締め付ける力が弱いことは助かったが、この後は――モタモタすれば嘴とか言う、タコやイカの口に当たる部分に放り込まれて、噛み砕かれることになる。
ヴィルマを見ると既に暴れる気力も無くしたように、口から肺の中の空気を大きな泡として吐き出して、ぐったりとしていた。
あまり時間も無さそうだ。
以前、厨房でイカ・タコの急所について教えてくれた店長の言葉を思い出す。目と目の間――神経系の基部が存在する部位を刺せば、これらは一息に〆ることができると。
盾や甲冑を水を斬る手応えで斬り裂く、魔剣プルトゥングの斬れ味無しには、成し得なかっただろうが、身体に絡む触手の多くを剣で円を描く様に一振りして斬り離し、残る何本かの触手を綱代わりに手繰ると、水の動きに合わせて身体が揺れる、安定しない海中で狙いを定めて――これらに共通する急所に魔剣を深々と突き入れた。
* * *
魔剣を突き入れて数秒で使いは、その体色を白く濁らせて――ゆっくりと海面に浮かび始めた。触腕の戒めから解かれたヴィルマは、静かに海中を漂う。
魔剣を使いから引き抜くと、ここまでダイビング・ウエイトの代わりを果たしてくれた尻ポケットの予備マガジンを海中で棄てた。もはやデッド・ウエイトでしかない。
 




