ギネアでおやすみ
祭儀に参加した皆で特産品のあとを追う様にして――先程、サムディ男爵が言い倣わした通り、パレードと言った趣きで、日の沈んだ港までの道のりを練り歩く。
通りを歩く俺たちへの祝福に、米や荒く砕いたトウモロコシが、家々から投げられる。正直……この空気、文化の違いもあるのだろうけど……苦手。
強くなる潮の香りを感じると、直ぐに港。
特産品たちは、そこで歩みを止めると、ヴィルマに宿るサムディ男爵と俺、そして参列者の皆に道を開けた。
「ご苦労。……君たちは、もう眠りたまえ」
サムディ男爵が咥えた葉巻を手に、グラスを口に運んで――、一口ラムを含むと、特産品たちに向かって吹きつける。
「善い夢を……そしてギネアでの素晴らしい新しい生を……おやすみ諸君」
海風に運ばれて、小さな霧となって広がったラムを浴びた特産品たちが、膝を折って倒れてゆく。そして、ここまで俺たちを案内を務めた特産品たちは、ピクリとも動かなくなり眠りについた。
スマホで、なにかを観ていた何人かが歓声をあげる。
「いよっおし! この賭け! 勝つる!!」(……アンタらな)
こんなガキんちょに葉巻咥えさせるは、ラムを口にさせるは……挙句の果てに、こいつをネタに賭け? ふざけんなよ。
……と、声を大にして言いたかったが、今も後ろには血の付いたバットや、マチェットを手にした怖いおじさん、お兄さんで一杯だった訳で……それは胸の中に……そっと、しまっておくことに。
この俺、百千万億 春夏秋冬は、空気を読める……空気を読める男なのだ。無駄な争いごとは良くな……い。
「ボコールはあそこか……ふむ。一寸、遠いなこれは」
大型船を係留する港のボラードに足を組んで腰掛け、男爵は目を細め、暗い夜の海の水平線に目を凝らす。
――見覚えのある船影というか照明。
いや、多分……間違い無い。先日、俺とネルが、クルーズ・ディナーで乗った船が、夜の水平線に浮かんでいるのが見える。




