祭儀が始まる
急遽、しつらえられた低い段の上に、ゆっくりと彼女が上がると、集まった人たちはヴィルマを囲み、その高いヒールのサンダルを脱がせて、跪き――彼女の足の指にキスをし始める。俺が眺めている前で、一通りのそれが終わるとヴィルマが拳を突き上げて声を上げた。
「シマを好き勝手してくれたボコールに礼儀を教えてやるのじゃあ!(だから、お前がそれを言うなって)集まってくれたみんな! 手っ取り早く行くのじゃ! トトカルチョは……わしに賭け直したな? 大損こく前に急ぐのじゃぞ! 太陽が沈むまでにレグバに祈りを捧げ、それからめちゃくちゃ仕事が早いロア、サムディ男爵にお願いするからの? それじゃあ……無礼者を懲らしめてやるとするのじゃ! お仕置きじゃああぁーっ!!」
全ての祭儀を取り仕切ることをメトレス・マリアに任されたヴィルマが、ライブ・ステージで観客を煽るパフォーマーのように声を上げると、集まった人々もそれに合わせて歓声を上げた。
静かな調子の連続した太鼓を叩く音に乗せて、ロアと人間を隔てるヴェールを取り払うという、十字路と魂の通信を取りなすレグバに祈りが捧げられ――、一気に、それまでとは異なる激しいリズムのアップテンポの太鼓の音に代わり、ヴィルマ曰く『めちゃくちゃ仕事が早いロア』サムディ男爵の祭儀が執り行われ始める。
地面の上に黄色いトウモロコシの粉で、ソロモンの悪魔の紋章もかくやと言う複雑な紋章が描かれ、その周囲に盛られた、同じくトウモロコシの粉の小さな山を参列者たちが、指で崩し――菊か、星を思わせるアスタリスクの様な模様に描き直す。
「準備運動は、これくらいで良かろうなのじゃ……」
ヴィルマの小さなつぶやきを耳にして、さらに激しい歓声を上げて跳ね踊る人々。
「面白く……ありません。カトリックでは聖人扱いされる輩のお祭りとか」
声に不機嫌を忍ばせるアルパゴンが、いつの間にか――俺の隣に姿を現していた。
「お、お前。今までどこに行ってたんだよ?」




