滞在費……おいくら万円?
流石に、このグレードのディナークルーズで、それは無いだろうと畏れ多く――辺りには聞こえない様にネルの耳に口を寄せる。
「……さっきまで、この船に居なかったハズなんだけど……魔術師が居るみたい? どうやって乗ってきたのかしら。『門』が開いた様にも感じなかったけど」
「魔術師?」
魔術師と聞いて初めに頭に浮かんだのは――騒々しい我が家の娘っ子ども。
(『※自分たちだけで旨い物とか、ズぅルいでぇーっ!』)
※プライバシー保護のため、画像と音声を編集しております。
(まさか、あいつらが……なんらかの方法で、このディナー会場に乗り込んで来たと?)
恥も外聞も関係無く、目につく食料をタッパーか、折り詰めに詰め込み、食い散らしに掛かる連中の姿が、脳裏に湧く。……お、恐ろしい。
折角、ネルと2人っきりの夜。台無しにされることは、何としてでも避けたい。
けれども、当然のことではあるけれど、乗り込んで来た魔術師は、あいつらと言う訳では無く、別口のお客さんのよう。
お陰で、船は無事に港に着くと、静かに舫いを放った。
* * *
陶片に入っていた店長からのメール。内容は、一足先に帰国するとの知らせ。先日のチケットの礼に、ネルが電話をかけると漏れ聞こえてくる声は、店長も奥さんも本当に嬉しそう。電話に加われない俺は「密かに俺の悪口で盛り上がっているに違いない」と、統失めいた被害者意識に駆られていたのは秘密。その秘密が駄々洩れに違いないのは、どうしようも無いが……。
あれから更に数日――俺たちは「良いのだろうか?」と思いつつも、屋敷の人間、ほぼ全員で(スコラスチカは、いつも通りのお留守番)ホテルに滞在し続けていた。
宿泊費……支払うとなれば一体、いくらになるのか考えるだけで怖い。
鏡台の前に座らされて、ネルに髪を弄られていたイープに、最近姿を見せないヴィルマの様子を聞いてみると毎日、朝早くにメトレス・マリアの元を訪ねているらしい。




