ご、御観光ですか?
「サプライズ? 必要か? この状況で?」
「サプライズ、必要、この状況だから」
今にも喧嘩に発展しそうな空気の俺たちを、他の観光客たちが、自分たちの愉しい空気に水を差されたくはないと、逃げるように立ち去って行く。
――とは言っても。これはほとんど無理な御相談でしかない。俺の思考を読み取って見せるコイツに、気づかれない様にサプライズ? 出来る訳が無い。
俺の提案したデートプランは、こいつにしてみたら――理由は良く分からないが、まるでお気に召さなかったらしい。
どうしたものか――どう機嫌を直して貰おうかと考えていると、救いの主。
「……春夏秋……冬? ネルちゃん?」
ほぼ地球の裏側で俺の名前を呼ぶ、聞き覚えのある声に驚いて、振り向く。
「「……店長?!」」
俺が声を上げるのと、同時に――
「バイト、サボって! こんな所で、なにしてやがる!」
笑い声混じりに駆け寄って来た店長のゲンコツが、俺に振り下ろされた。
* * *
「ネルちゃんとのデートでバイトサボるんなら、そう言いやがれ。なぁにが追試がぁ~だ」憎まれ口を叩きつつも店長はひどく、ご機嫌で「甲斐性見せやがったじゃねぇか? えぇ? 春夏秋冬ぇ」
博物館の飲食が、可能な区画のパラソルの下で――先程、はたかれた頭をさする。
「奥さんは、どうされたんです店長? と言うか、なんでこんな場所に? 店はどうしたんです??」
「質問責めじゃねぇか春夏秋冬。女房は御近所さんにって、あちこち土産物屋巡りが忙しいらしくてよ? 疲れるし、添乗員さんに任せて置いて来た。此処に来た理由は、最近、商店街で導入されたオンライン・ページとか言う奴の福引でよ? レシートに……こう? もじょもじょ~っとした四角い……なんかあるだろ、ホレ?」




