繰り返される問答
「貴様が手にする『よし』は『ものの……」
「ハイ!『もののぐ』ではありません! 必要な物は『杣木』です!『闘諍』ではありません!」
「………………」
再び森で出会った先日のオークの問いより先に、森を訪れた目的について、ハキハキと応える俺。
(……? ネルによれば俺は、……若返って外見が、また大幅に変わったらしいってのに、変化に気づかない……のか?)
オークの表情と言うか、空気で分かる。どうも、このオーク……先日の俺と、今の姿の俺。顔立ちなども、だいぶ変化したハズなのに──同一の人間として認識している様子。
(ペットショップのハムスターの顔を見分けられない、ノリなのか?)。
であるにも、かかわらず。同じ質問をして来たと言うことは、彼のこの問いは、儀礼的なもののようにも思えないでも無いけれど……。
それをわざわざ確かめる度胸は、持ち合わせていなかった……。が、あれほど恐ろしかった存在に対して、今は指輪を通じてネルと繋がっている安心感から、普通に会話する余裕は、生まれていた。
『なにかあれば、きっとネルがなんとかしてくれる』
なんの根拠も無かったが……。何故か、その確信だけは しっかりとあった。
「………………」
問いに対する、間髪入れる間も無い、俺の返答を聞いたオークは、俯き加減にトボトボと森の奥へと立ち去って行く。
(……? なんだか……物凄く、がっかり……されておられますような?)
立ち去るオークの背中に、なんともいえない哀愁のようなものが、絡みついていたが──そんなことは、知ったことでは無い。
「闘諍(戦い)」と応えたが最後。
仮にもし、あんな巨体のオークが襲いかかって来でもしてーー無事に森を出ることができるとは、とても思えなかった。死なないにしても、痛い思いはしたくない。
(……ま、いいや。この間の樺の木の残りを早く持って行こう)
──その後、日を跨いで樺の木の残りを運ぶため、何度か森に足を踏み入れることになったが、その都度、いつも同じオークと出会い、そのたびに同じ問答が繰り返された。




