有栖川影久の涙
屋敷の住人全てを連れての、まるで大名行列の様な仰々しさ。しかし、このホテルの従業員たちは、俺たちが撒き散らす高負荷を淡々と、捌き続けて見せていた。流石は、5つ星ホテルと言う訳なのだろう。毎度、毎度、身につまされて感じる、分不相応感が半端無い。
「――、魔素の瓶14本、マギアタイト鉱石18キロ、愚者の石板1面、魔導書3冊……以上が、アルパゴン氏よりの贈答品の内容となります。危険性のありそうなものは魔導書くらいでしょうか? 内容については、お嬢様もあまり明るくない御様子でして……と申しますか、ご興味が無い分野であるらしく……これにつきましてはオーサ様に、お訊ねになられるのが、確実かと思われます」
カリブの明るい光が差す部屋の中で、いつもと装いを変えた、アロハとバミューダ姿の有栖川さんが、以前に鑑定をお願いしておいた品々の目録を読み上げてくれた。
「すいません。お手数お掛けして」
「仕える」とか言っておいて、この地に着くなり、ちょくちょく姿を消すバカ悪魔に代わって、世話を焼いてくれる有栖川さんに申し訳無さで一杯。
「…………、――、…………、」(……?)
珍しく、有栖川さんが言い渋るような表情を見せた気がした――。
「……えぇっと。どうか……なさいました?」
普段とは異なる彼の様子に、どう声をかけたものかと迷い……整った顔を窺う。すると彼は余程、伝え難いことを口にするような様子で言葉少なげに
「……申し……申し訳……ございません」彼の口から絞り出される言葉とは思いもしなかった謝罪の言葉「……当ホテル、ガルフ イン&スゥイーツ エスメラルダにおきまして……皆様の……水着イベントは……御用意できません……でした……ううぅ!」
「……はっ? え?」
口元を押さえて嗚咽する、有栖川さんの涼し気な目元には、大粒の涙が光っていた。




