名探偵かっ!?
呑んだくれが入れる「たぁまやぁ~♬」の間の抜けた合いの手。一拍置いて、カリブの月明かりに照らされたプールに水柱が上がる。放り込まれたお子様は、水から顔を出し、きょとんと呆気に取られた表情。
「おらおらおらぁ! たった1回で御終いってか! さっさと上がってこい! 取り敢えず、あと10回ダイブ!」
俺の声と同時に顔を輝かせ、バシャバシャ音を立てて、プールから上がってヴィルマが突進してくる。
「ほ、ほらね♪ ツモイさん、がっかりする程、まともな人だもん。あ、あたしたちの旦那様になった方なのよ? リュシルの勘違い勘違い♬ ……仮に、そうだとしたら、流石に気持ち悪過ぎるって ひそっ」
(ぎ、ぎりぎりセーフ!)
「……3割……まだ、分からないわ。水に濡れて透ける服に……異常に興奮する、歪んだ性癖の可能性も捨てきれない。……わたしには分かるのよ。朝に感じさせられた……あのキモさ。……只者じゃないわ」
(――んもう!!)
童心と童心。子供の目線に立って、一緒に戯れることができる、大人の風情的な物を醸し出してーー子供にありがちな、無遠慮な言葉を気にする様子も見せずに、大きな器で(烏滸がましいっ!)流し続けているに過ぎないのだと――子爵家令嬢の、この土地の海と同じ色をした疑いの眼差しを躱そうとしたが……それは少し、無理なようだった。
* * *
デシレアが所有するこのホテルは、数年前のハリケーンによって完膚なきまでに、この島の数多くの建造物と同じく破壊され(実に島の9割の建物が破壊されたのだとか)、ようやく修復も終わり、少しシーズン外れとはなったものの、オープンに漕ぎつける目途が立ったのだと言う。
このホテルのプレ・オープン前の一番大事な時期にもかかわらず、俺たちは従業員サーヴィスの最終チェックの名目の元、オーナー様の御厚意で滞在させて貰っていた。……俺は、どんどん……ダメになって行く。




