カリブ随一の大慌て者
ひとしきり愉し気な声を上げたあとで、目に浮かんだ涙を指で拭い「旅費? このサムライと出会えて……生活には困らなかったのだろう?」まるで確かめようも無いことにもかかわらず、折込積みだったと云わんばかり言葉を返す彼女――
「で? ニュースとは、なんのことだ?」
メトレス・マリアは、自分の危機に慌てて駆けつけてくれた愛弟子に、優し気に微笑み小首を傾げる。
「ん?」
流れた黒髪に隠れていた、耳を飾る真珠のピアスが――教会のステンドグラスを通した夕陽に輝いていた。
* * *
――結論から述べると、全ては件のニュースを目にしたヴィルマの、突飛な勘違いでしかなかった。なんでもヴィルマ曰く、
「……し、仕方無いのじゃ。当代随一のゾンビ・メイカーが……メトレス・マリアじゃし……てっきり、ステイツにパブリック・エネミー認定されたのかと……思ってしまったのじゃ……わしは悪く無いの……じゃ。全部、日頃の行いが悪すぎるメトレス・マリアが悪いのじゃ……」
傍若無人の普段の振る舞いからは考えられない、縮こまり様を見せての釈明会見。まぁ……こちらに来る前に、こいつに話させた際の内容からして――俺たちも、取り越し苦労に違いないとは思いつつも、ヴィルマの里帰りに同行することにしたのだから、案の定と言った感じでしかない。
アンティグア・バービュータ有数の5つ星ホテル「ガルフ イン&スゥイーツ エスメラルダ(1泊……お1人様、日本円にして70万円……とか)」が誇る、夜の海を眺めてのプール・サイドに置かれたテーブルに着いて――ヴィルマは、やり切れなさを漂わせ、トロピカル・フルーツと花で彩られたドリンクのストローを、ガジガジと齧る。




