異界詣では、こっそりと
泥縄は……ワーグの件でトラウマ級に懲りた上に、デシレアからの あのお叱りを経て ようやく俺は――
やる気も起きなかった射撃訓練をアルパゴンの実家が存在する領域。いわゆる「魔界」と呼ばれる地、ザイツェ・アルカンに『門』を用いて移り、そこで数十年に及ぶ研鑽を積み重ねて来たとーーこう言う次第。
屋敷の誰もが、起きていない時間を見計らって出かけて――戻って来ていた「つもり」だと言うのに……俺はマヌケにも彼女に、それを目撃されてしまっていたらしい。小野篁も夜な夜な井戸を通って、地獄に赴いていたのを人に知られてしまっていたことを考えると、わりとこれ……難易度は高いのか?。
これらを彼女に説明するには、ネルに老齢の自分の顔を見せて大喜びさせたあとで、配達されたばかりの牛乳でも飲み干すかのように、呼び出したボトルで一気!
ネルのおっぱいを久方ぶりに、たらふく口にして、若返ったことなどを細々説明せねばならず、勘違いしたままの彼女には申し訳無かったが――俺は、この場での説明をいつものように諦めた。
(某バスケ漫画に登場人物するふわふわの先生が、俺の頭の中で言うのだから仕方が無い「春夏秋冬くん。人生……諦めが肝心だよ?」)
「は~い♪ 皆さぁ~ん♬ 陶片をお返ししますよぉ」
朝食後の湯呑みから立ち昇る緑茶の香りに、ホッと一息をついていた所で、いつもの如く悪魔の底抜けに明るい声が響く。ザイツェ・アルカンでは大公を務めていたらしいが……忌々しいほど良く動く悪魔だこと。
朝食の合間に食堂に集まった皆の陶片を預かり、現世で俺が購入した一軒家に行ってネットに繋ぎ、そして朝食が済んだ頃合いを見計らって、陶片を皆に渡すこの日課は、定着しつつあった。




