差し出された花嫁たち
なんの保障にもなら無いどころか、あまりにも頼りない……その肯定の言葉に、目を輝かせる彼女。なんだか……本当に生活に困る人生を送って来たことを察することができる様な――表情に見えた。
「御着きの皆様方は、いかがなさいますか? 御挨拶に伺われた方が良いかと思いますが……本日は、お部屋にご案内してお休み頂き、また明日にでも御挨拶なされますか?」
いつの間にか執事のポジションに納まってみせた悪魔の、分をわきまえた如才のない言葉。この悪魔のこと。面従腹背なのは間違い無く、腹の中では舌を出して大笑いしているに違いないのだが――とりあえず。
俺は屋敷に戻って来た皆を出迎えるべく、この応接室に通すように悪魔に伝えた。
* * *
俺が苦手とする――片肘を張った、貴族貴族した挨拶の後での、各家から携えられた書状を手渡され、それに目を通した後での賑々しい夕食の席。
彼女たちの様子に変化は、特になかったが――俺は理解に苦しまざるを得なかった。本気で理解できなかった。
そう言う価値観が、「あった」と言うことは知識の片隅に知ってはいたが……。
どこの馬の骨とも分からない輩で間違いない俺に、ポンっと投げて渡すかのように娘を寄越す、その神経。
理解しろと言う方が、どうにかしているように思うのは、俺だけなのか……。
食堂に置かれた長いテーブルに着いた彼女たち、そして他の面々にも動揺などは見られない。
ただ、ひとりウルリーカだけは、目だけで
『……どう言うこったよ』
と、でも 物言いたげな――殺気の込もった視線を投げかけてくれていた。この場において、俺が唯一理解可能な感情を見せるのが、こいつ。
いやぁ~、嬉しいやら怖いやら……。




