御家第一
俺の問いを耳にして彼女は――澱むことも無く、淡々と。
「聖鈴教会の法皇の勅語が記された親書を拝見した。これは、旦那様と大奥様の領地における特権を法皇が認可したことを意味する。……貴族の娘とは言っても、わたしは毎日の食事にも事欠く貧しい貴族の生まれ。善い嫁ぎ先が、見つかったのであれば躊躇はない。ただ……願わくば、国元に残して来た、わたしの妹が……お腹を空かせない様に図らって頂けると有難い……有難く思い……ます」
ネルの方を見てみると――それはそれは、もう満面の笑み。
(『まっかせろぉい!!』……みたいな心の声が聞こえてきそうな表情だね……ネル)。
「大昔は兎も角……今の俺は、どこに出ても恥ずかしくない、馬の骨以外の何者でもないんだぞ?」
彼女に考え直して貰いたいが故の一言。けれども彼女は、それを聞いた上で、しばらく考え込んでから――。
「大奥様が、生命を司る偉大な龍であることは、アレクサンドラ様が、お認めになられた。執事と思っていたアルパゴンは、本物の悪魔だということも知った。これらの上に立ち、大奥様のつがいであり、緑龍銀行の総裁を義妹とされ、その上 親しい間柄の旦那様に嫁ぐことに……少なくとも、わたしには不満など無い。御家を第一に考えねばならない貴族家に生まれた女の身では、あってはならないと考える。他の皆も同じだと思う。そして この場合――身分は問題ではない」
彼女はそこまでを話した後で一息ついて、改めて――こう口にした。
「これだけの条件が揃っているならば、身分など後からついて来る。旦那様が、望みさえすれば、きっと……すぐにでも覇王となられるのは間違い無い」
「……俺の能力は兎も角。その他についてだけを考えるなら……そう……なの……かも……知れないけれども……さ」
彼女の言葉に分不相応過ぎる、御評価を受けて――重たすぎる上に煩わしいものを感じつつ、力無く……首肯して。
「……ほ、ほんとうに?」




