お前らに躾なんて出来ないしなぁ
タイミングが悪いのは間違い無い。ネルに対して湧いた疑念を、この場で追及することを不承不承に諦めざるを得ない俺に、彼女は――。
「さっすが♬ アタシのつがい♪」
勝ち誇ったかのように――場の空気を汲み取るしか無かった俺の差配に、無闇矢鱈と過分な賛辞。
そのやり取りを目にして、意味は分からないながらも、俺たちの間柄の善さを揶揄する声を、小さく上げるデズデモーナたち。
その囃し立てるかの様な声に、まんざらでもない反応を示すネルの様子を目にしつつ――俺は、どうしようもなく……不穏なものを感じていた。
* * *
デズデモーナたちが国元へと帰る、その日。
俺は一足早く、外で彼女たちが姿を現すのを待っていた。
「くぅ~……」
「分かってる! やるから!? あげるから! がっつくんじゃない!」
手持ち無沙汰の慰みに、倉庫から持って来たネルのおっぱいで作ったチーズ。
そろそろ熟成も進んだのではと、カットした小さな一塊を手にして小屋を出た所で、小太郎と花さんに見つかってしまい――よこせ、よこせと、鼻にかけた甘え声で、ジャレつかれていた。
いつの間に与えられたのか、2頭はデシレアが作った物と思われる……首輪では無く、首飾りと腕飾りを与えられていた。いずれも大変凝った組み方のチェーンで、かなり高価な物の様に思えた。
「あ~っ! はいはいはいはい?!」
甘える2頭の巨大すぎる熊の鼻先を押し退けて、拝借して来たおやぢの私物。ウェンガーのアーミー・ナイフをポケットから取り出し、ブレードを開いて小さく、薄く。チーズを削って、手で小太郎の鼻先に差し出す。
手首ごと持って行かれるかと思うほどの勢いで、小太郎は差し出されたチーズの欠片を旨そうに、あっという間に平らげ、お代わりを要求して来る。
「待ってろ! 待ってろって! 次は、おめぇのかーちゃん! かーちゃんから先! 危ないから! 危ないから!?」




