俺、問題児
ヴィルマは、禁止されていると言って聞かせたにもかかわらず、ゲルダの占いを武器にトトカルチョに出掛けていた。止めはした……が、気が付けば、その時には既に奴の姿は見えなくなっていた。
オークの娘たちにはメルトゥイユと同じく、外套をフードまで被り、大人しく観戦するという条件の元に、祭見物を許した。こちらは、まぁ……心配らしい心配も、もはや特に必要も無さそうに思える。
――問題は
「オイ! そこの貴様ら!?」
声をかけられたのは、俺とネルの2人の様。
俺は兎も角――兎に角、人目を惹き過ぎる容貌のネルは、こんな治安があてにならないシルウェストリスという世界では、トラブルの種にしかならないことは分かり切っていた。これまでも、できる限りの外出は控えさせてきた訳だったが……。
今は俺と2人。大仏のラバーマスクを被って、顔を隠し、祭見物にやって来ていた次第。
「あッ! クッソ!」
蒸れるラバーマスクの下、限られた視界で目を凝らし、陶片でドローンを操作して空撮をと、試みていたところ――その誰何の声に、操作を誤り墜落させてしまう。
(……さらば。5000円で買った中華ドローン)
できるだけ目立たない生活を心がけて? こちらの世界で見咎められないように? こちらにある物を基本使って、外では過ごす?。
そうなのだ……俺は、この日。
自分でも意外なほど浮かれてしまい、それらを完全に忘れ去ってしまっていたのだ。
この日、一番の問題児――それは、俺。
落胆して2機目の180mℓペットボトルサイズより小さく、折り畳まれたドローンをもそもそと、ネルの手提げから取り出して、準備をしようと取り掛かる。
「……ステェ……ンバァ……イ……」
「怪しい奴! 今、空から落ちたのは、貴様の……つ、使い魔かっ?!」
凄い剣幕で衛兵を従えて、近寄って来たのは聖鈴教会へ、メルトゥイユと2人で出向いた際に応対してくれた彼、ヴァシレフさん。
多分、この試合のお祭りの空気が冷めたあと――。
騎士たちが近隣の村々を略奪して回ることに頭を悩ませて、殺気立っているのかもしれなかった。




