セコンド兼トレーナーが、一番不安な件について
彼女たちは、ネルを交えてのペルシュロンとの鍛錬に勤しみ続けていた。正確に動物との意志疎通が可能なネルがトレーニングに協力している時点で、この種の競技での勝ちは揺ぎ無い様に思える。
馬場の柵に腰かけて足をぶらぶらさせ、グラスを片手に中身を啜るアイツの様子に、不安も覚えはするが――。
馬術競技の要。騎手の意図をどれだけ馬に正確に伝えられるか? ということが、問題では無くなる訳だ。他の参加者は2人羽折りの状態であるのに、彼女たちだけは自在に振る舞えるような物だ……。
そんな訳で俺は、試合に向けた彼女たちのトレーニングには、口出しすること無く――師匠を亡くして喪に服す魔術師たちの様子を伺ってまわることにした。もっとも、毎日食事時には食堂で顔を合わせる彼女たちのことは、わざわざそんなことをしなくても、それなりに把握は出来てはいたが――今は、そちらの方が、よほど心配事だと言えた……。
* * *
――試合日 当日――
プレァリアの街の郊外に設けられた槍試合の会場は、近隣から多くの見物人たちが押し寄せ――凄まじい、活気。
遠方から試合に参加するためにやって来た、騎士も数多く見受けられ、試合見物にやって来た観客の群れ、その彼らに食べ物や飲み物を売り歩く、物売り。
騎士のこれまでの活躍のダイジェストを歌に変えてヨイショする吟遊詩人。
お祭りさながらというよりも、お祭りそのもの。その日、ウチの人間たちも総出で、お祭りに参加する運びになったのは、言うまでもない。流石にスコラスチカにだけは居残りを頼むことになってしまったが……。彼女は特に気にもしていない様子で、
なんでも人が多い所というのは――想像するだけで感覚器が、ジンジンさせられるのだとか……。




