そのキスは、頭突きの衝撃 【Picture】
全長90センチほどのダマスカス模様が浮かぶ長剣の剣身からは、夏の日差しの下でも確認できる、青い遊糸がゆらゆらと、たなびき――観るからに怪しげな雰囲気を纏っていた。
「悪魔がくれるって言った物だしよ? 心配だったから、ネルにデシレア、オーサにアレクサンドラにまで見せて……漸く、安全が確認できたから、お前にやるよ」
「う……うぅおおぉぉう……あうあうあう」
魔剣を手にしたウルリーカは、感動のあまりにか……声にならない声をあげる。
「魔剣の能力ですか?」ウルリーカの口にしたいことを読み取った悪魔の声に、彼女は こくこくと――張り子のトラの如く首を縦に振ってみせる。
「私の実家にあった物ですが、この世に滅多に存在する物では無いと思われます」そう前置きしてから悪魔は彼女に、魔剣の持つ力について説明。
「まず、そこいらに出回る甲冑や盾であれば、水を切る程度の抵抗で両断が可能です。ちゃんと鞘に収めるんですよ? 大変な斬れ味ですからね? 他には抜いた者の身体能力を向上させる。それと実体を持たない対象であっても、傷つけることが可能。あと、これは魔剣と呼ばれる物の基本能力の様なものですが、折れない、欠けない、毀れない。……こんな所でしょうか」
「でしょうか」不安を覚える悪魔の一言。その曖昧に話を畳む先に、重要な付帯事項でもあるのではないかと問い詰めようとしたところ――俺が開きかけた口は、手にした剣を放り出して、感極まった様子で飛びついて来たウルリーカの唇で塞がれてしまっていた。甘い吐息? それを感じ取る暇などあるハズも無い。感じたものは、彼女の八重歯にも似た犬歯が、ガツーンと歯に当たる衝撃……のみ!。
ウルリーカが手放したプルトゥングは、剣身の半分まで、地面に埋もれて突き立っていた。クィンヒルデの魔剣にも、引けを取らない怖ろしい切れ味。けれど……誰ひとりとして、そちらを注視する者は居なかった。
地面を転がり回った際に、汗を滲ませていた彼女の肌に付いた土が、俺の身体に落ちて――じゃりじゃりと擦れる。




