ダイレクト裏口面接
「なぁ? これ……本当に俺も参加しなきゃダメ?」
ネルと2人だけの食堂――テーブルの長い辺を前に座り、下らないことを考えては俺につき合わせる彼女に、居心地の悪さを伝える。
「ダメよ。アンタが連れて来たのよ? アンタが、審査に加わらないとか、逆に意味分からないでしょ」
そりゃ、そうかも知れないけれども……口にしようとしたところで、食堂を閉ざすドアがノックされた。
「……ノックは3回。まぁ、この程度で失点するようなら見えてるわね」
「…………」
以前、先生ごっこを行った時の装いに着替えたネルが、クイッっと眼鏡をなおす。
(……やだぁ、この空気…………)
「どうぞ」
「失礼、致します」
一分の無駄も無い歩みで――俺とネルが座る席の前に置かれた椅子の傍に立つアルパゴン。
「着席して下さい」
ネルが言い出した面接ごっこに、凛々しい表情で挑むアルパゴン。
「宜しくお願い致します」
「…………」
静かなたたずまいで彼は、挨拶を口にする。
この空気――耐え難い。逃げ出したい……。
「自己紹介をお願いします」
ネルの凛とした声にアルパゴンが口を開く。
「名はアルパゴンと申します。年齢は数万歳くらい。性別は、それなりに高位の悪魔ですので御座いません」
カリカリカリ! っと、万年筆を走らせる面接官。
「今までの職歴・経歴を教えて下さい」
「以前は、魔界で大公を勤めておりました。経歴は、ここ1103年ほどは……引き籠っておりました」
ネルの瞼が眼鏡の奥で微かに動いて、減点に筆を走らせる。
(……お、おめぇ。こいつを採用する気は無ぇんじゃねぇか……)
別に、このアルパゴンを擁護したい訳では無い。先日のヴィヴィたちの師匠の臨終の間際に、響かせた嬉し気な声を思い返せば――こいつが、どうしようもないクズ野郎なのは間違いない。しかし、で、あるならば。この茶番は一体、なんの意味があるのかと言うお話になる(ひと思いにお引き取り頂けよぉう……)




