魔女の葬儀
相も変わらぬ調子のヴィヴィの軽口。年老いた魔女は、それを聞きながら――笑うと、
「旅先で旨いもんは……食っておくもんだと言ったろう……。一生後悔するよ。……でも、あちらに――あんたらと囲む、騒々しいメシ以上に、旨いもんなんて、あるんだろうかね……」
その言葉を最後に、彼女は静かに息を引き取った。
* * *
指輪から陶片を呼び出し、ネルに繋ぐ。
ボトルをネルに出して貰えるように頼む「……多分『断られる』と思うわ」良くは分からないが、ニュアンスは理解できる。しかし、家の中で泣きじゃくる魔術師たちを前に――諦め切れる程、俺も大人じゃ無い。
「す、素晴らしい! これほどまでに悲壮な声を耳にするのは、どれほどぶりでしょうか!」喜色満面のアルパゴン――構っている暇は無い。
根負けしたように、指輪からボトルが現れた。
力無く、薄く目を開いたままの、年老いた魔女に何度もボトルを振りかざす。
一度の使用で致命傷すら瞬時に癒す、このボトルではあったが――これを用いても彼女は、再び悪態を吐くことは無かった――。
――夜の森の中。
魔女の家の傍らに、そびえるハルニレの大樹の下に、クィンヒルデたちが埋葬用の穴を掘ってくれていた。
眠るように逝った魔女を穴の底に横たえ、メルトゥイユが「……私に葬送を執り行う資格は与えられてはいませんが」と断った上で祈りを捧げてくれた。
拝金主義の――世の聖職者様より。
彼女の祈りが慰めにならないとは思えない。充分な、お送りに違いない。
――その夜。
別れを惜しみ続ける、魔術師たちを残し――部外者の俺たちは、
先に『門』を潜って屋敷に戻ることにした。




