近所に遊びに行って、帰って来た子供のように
「――仮の名前としまして」そんな俺の考えを読み取った悪魔が少し考えつつ。
「ルンペルシュティルツキンという、昔……分霊が用いた芸名も御座いますが(……芸名?)長く呼び辛い……やも知れません。貴方様が、お名付け下さい。
お付けいただいたお名前により、私の在り方もまた……貴方様の傍らに在るに相応しいものとなることでしょう」
しばらく考えた後で俺は――「じゃあ……アルパゴンで良いか?」
この気前が良すぎる悪魔の呼び名を さかしまに、そう名付けることにした。
* * *
うろくづの森とは植生の異なる暗いの森の中に、その家はあった。
絵本や、おとぎ話に描かれるままの――魔女の家。
アルパゴンの劇場から、距離はそう離れてはいないとのこと。
例によって例の如く、デシレアに『門』を使わせて貰ったことから、その位置関係については魔術師たちと、悪魔の話に頼る以外にない。
「お師匠様!」一番に家に駆けこむゲルダ。俺たちも後を続く。
「……やかましい。バカ弟子共」
生気を感じさせない、罵声が漏れ聞こえて来る。
水入らずの空気に水を差すのもどうかと考え、魔術師たちが家に入ってしばらく、外で時間を潰していると――イープが姿を現して、手招きして家にお邪魔させてくれた。
家の中の粗末なベッドで彼女たちの育ての親、老齢の魔女が横たわっていた。
「死にかけのババァの見苦しい寝間着姿で申し訳無いね。白龍ネルのつがい……」
『白龍ネルのつがい』何故そのことを知っているのかは知りようも無かったが――今は、気にしても仕方が無い。指輪からボトルを呼び出し、彼女を癒そうと考えたものの、ボトルを呼んでも指輪は、なんの反応も見せなかった。
「無駄だよ。……別にあたしは今から、おっ死ぬことに未練もなければ、普通の人生の何倍もの時間を浪費して生きて来たんだ……白龍のネルだろうと、どうこうしようもあるものかい……」




