じゃあ一丁、聞いて貰おうか
悪魔の頼みを聞くことにした俺だったが――困ったことに、いざ話そうと思うと出てこない。しばらく、記憶の引き出しをひっくり返して話す内容を探す。
「……こんなのはどうだ? お気に召すか、どうかは分からないけれど」
そう断って、俺は過去の出来事を聞かせることにした。
「昔、気になってる子が居たんだ……」
「ほうほう? なにやら甘酸っぱそうな……入り方。興味深い」
「で、その子な? 当時、付き合っていた彼氏と喧嘩してたらしいんだけど、ちょっと話を聞いてあげてたんだわ」
「我々、悪魔であれば弱みを見つけて……しゃぶり尽くしにかかるところですが、そうでは無かった……っと。失礼、先を続けて下さい」
「……そしたらだよ?『わたし……あなたのこと好きかも…』みたいなことを言われた訳さ。女と付き合ったことも無かった当時の俺は……そりゃあぁ、もうね? 内心、飛び上がらんばかりに喜んだ訳だ。でもそこで、ガッつくと……引かれそうだろ? だからよ? その喜びは、ひた隠しにしてだ?『え~? マジっすか? いやでも……オメーさん、彼氏いるべ?』ってさ? ドキドキしながらもぉ~、軽く流してますよ? ってアピってた訳なんだよ」
「おぉ! 虫唾の走る善行を聞かされるかと思いきや、我ら悪魔にも理解できる打算! 下心! 私の目に狂いは無かった。お続け下さい!」
「そしたら……驚くことによ?『じゃあ……今から彼氏と別れて来る』って、彼氏さんと電話するためにスマホ持ってさ? あ、スマホってのは……」
そう説明を入れようとしたところで、悪魔は手で それを差し止めて――
「大丈夫です。貴方が、稀人であることは理解しておりました。その手の知識は貴方の記憶を通じて取得できますので」
そして悪魔は話の続きを促す。




