断章
「……こないな……朝早くから……なんやのん」
欠伸交じりで、髪を結ぶどころか、寝ぐせも直さずに、玄関ロビーにやって来たヴィヴィは――眠たげに目をこすり、朝一の悪態をつく。
「これ……」
渡された小冊子を手に口元の艶黒子をわななかせ、震えた声を上げたのは――相変わらず、格好の付かない前髪が悲しい……イープちゃん。
「……どないしたねんな」
問いかけるヴィヴィに答えるでも無く、姉のギアネリが口を開く。
「これ……断章や……」
「なっ?!」
眠気まなこの三白眼を見開いて、眼鏡を服の裾で磨くと、渡された冊子を目を皿のようにして読み込み始めるアスタ。
「……ほ、本当だ」アスタの声は――ブルース・ハープのヴィブラートのように震えに、震えていた「……鬱陶しく感じる訳がついてるけど……こ、これ……だ、断章」
その言葉を合図にして彼女たちは、顔をお互いに突き合わせると、一斉に食い入るように冊子に目を通し始める。
ただ一人――ヴィヴィを除いて。
「……旦はん。ひとつええか?」
普段から眠たそうな口調と目をしたギアネリが――しかし、よどみを見せない調子で。
「……あんたはん。一体、何者やねんな」
――簡潔ながらも大変、返事に詰まる質問。どう答えたものか……。
「ちょ、ちょっと待ってよ……」ゲルダの怯えた声「これだけの数の……呪文が記された断章読んだりなんかしたら……私たち……ひとりも、まともで居られる訳無いじゃない……」
恐怖が彼女たちに伝染するのは一瞬。どよめき始める彼女たち――。
「あぁ……大丈夫、大丈夫」
彼女たちを安心させるには、適当かどうかは分からなかったが――昨夜、陶片でデシレアにも訊ねた話を、怯える彼女たちに聞かせる。




