途端に沸き起こる不穏の空気
こいつの言う豆料理とやらは、バーガー・サイズの豆が使われているとでも言うのだろうか……ジャックと豆の木か。いや、豆の木を生やした豆。
それ自体は、普通のサイズだった……ハズ。
「……はい。ありが……とう。次、イープ」
「わたしの魔術は〝ささやかな火〟」
そう言うと彼女は、長大な呪文を噛むことも無く、諳んじて、詠唱して見せた後で、指先に――ぽっ! と小さな火を発生させてみせた。
これは、まぁ……。
魔術と言えば魔術かも知れない……が、地味なんてものじゃ無い。
ライター使えば、こと足りちゃう。
(とりあえず……彼女の前髪がなんで、あんな散髪に失敗したみたいになっているのか……その理由は、理解した)
「とうとう……ウチの番やな。真打登場って奴や!」
……なんかもぉ……この時点で。
なんの期待もできない空気ではあったが――させるに任せてみることに。
させなきゃ後々、うるさそうだし……。
「……みんな下がるで。あと、眼鏡は外して仕舞うんや……」
「……?」
年長者のギアネリの言葉に従って、皆は申し合わせていたかのように、一斉に距離を取って数歩、後ずさり――眼鏡を掛けていた者たちは、それを外して、それぞれポーチや、ポシェットになおし始めた(ん? んん?)。
「行っくでぇ~!」
張り上げられるヴィヴィの声を耳にして、彼女の方を向くと――彼女は、かなり遠くまで離れて、杖を構えて呪文の詠唱を始めた様。
(これは……!)
ひょっとすると……ひょっとして……。
今、彼女が唱えている呪文というのは……。周りの魔術師とは名ばかりの芸人たちの距離感から察するに……それなりに広範に影響を及ぼすような――爆発?! 爆発する?
も、もしくはそれに類する、ヤバイ魔術だったりするのか?
嫌な汗が一筋、頬を伝う。
彼女に、その魔術の行使を止めるように叫ぼうとしたその時――呪文の詠唱は完了。
こちらに向かって、勢い良く駆け出す彼女。
「ちょっ?! ちょっと待てぇい!?」




