メンバー脱退 増える寵姫問題
眠た気な目に、分厚い眼鏡を掛けた黒髪のボブの少女が、すぅ~っと迷いも無く、白い手を上げる。「……ウチは、それでえぇよ? もし、良ければやけど。よろしゅう頼んます。大奥はん……姐さんがた」
「えっ♪」ネルの表情が一瞬にして輝く。「ぎ、ギアネリっ?! あ、あんた!? 自分が、なに言ってるのか分かってるの?!」その他の魔術師たちは、眠た気な眼差しをした彼女に詰め寄り、身体を揺すりながら口々に声をあげていた――が、
「……だって、分かるやん。こないな辺鄙なとこに、こないな屋敷に篭って、見まわせば、歳も容姿も種族もバラバラのえらい別嬪さんばかり。食事にも、こないに香辛料利かせた料理がポンポン並びよる。これがハーレムやなくて、一体なんなんな? ウチ構わんで? 正直自分、魔術の才能とか無い思っとるし……。このお大尽に、お手付きにして貰って人生あがりを決め込むわ」淡々と――老成しきった人生計画を語る彼女。
呆気に取られ――言葉を無くす、……仲間の他の魔術師の娘たち。大喜びのネル。
下世話な話を、身を乗り出して始めるメルトゥイユ&ヴィルマ。沈黙するクィンヒルデにスキュデリ。カトラリーのナイフを、顔を真っ赤にして俺に向かって投げつけるウルリーカ。騒々しいこと、この上無かった――
あと俺の命も……もう少しで無かった……。
壁に突き立つナイフが、徐々に鳴りを静めるのに対比する様に、静かに上がり始める――もうひとりの少女の手。
「あぁ~……ねぇちゃん……ズっルいなあぁ……。……んじゃあ、ウチもぉ~……。みんなぁ……堪忍なぁ? にぃ抜けやぁ…………」
姉妹の脱退宣言を受けた彼女たちは――無言で、2人を見つめていた。




