契約成立
もはや、スコラスチカ様! と呼ぶ! ……に、そんな他愛無さ過ぎることを訊ねられてはいたが、俺はやっとのこと、口にせねばならない言葉を思い出し、有栖川さんに――、
「……そ、その金額で……お願いしま……す」
そうとだけ伝えると、椅子の背もたれに、溶け落ちるソフトクリームのように、もたれかかっていた……。
「……なぁ? ウチら。金蔓見つけたんちゃうか? もうギルドとか……どーでも、えぇんやないか?」
片脇に置いた鞄から――せっせ! せっせ! っと、アレクサンドラ金貨と銀貨を積み上げる有栖川さんを目にして
――先ほどまで怯えた様子を見せていた魔女たちが、無邪気に卑しいことを口にしているのを聞いていた。
* * *
――夕食時――
特売の買い出しから帰って来るなり、ネルは上機嫌だった。
それはもう……気色の悪いほどに。
「スコラスチカぁ~♪ お肉ちゃんと食べてるぅ~? タンパク質は糸の素なんだから、しっかり食べないとダメよ~♬」
……まぁ、コイツとスコラスチカは出会った、その日から。
なにやら互いに相通づるものでもあるのか、もとから仲は良かったが……。猫撫で声全開のネルに、困った顔をしながらも――。
「……心配しなくても、ちゃんと分け前はあげるわよ。ネル」
なんだかもぉ~っ、顔から火を噴くほど恥ずかしい。
ネルの様子に、身悶えしそうになるのを必死に、我慢を強いられる俺。そしてスコラスチカは――
「大体、私。ここに居させて貰ってるお陰で、あの量の糸出せたんだから。普段は10分の1くらいかしらね? だから あのお金も10分の1も貰えれば、それで良いわ」
そんな無欲なことを口にしつつ、急遽、彼女のために用意された専用メニュー。レバ刺しを指で摘んで美味しそうに口に運ぶ。
「……ま……マジで?」
あっけに取られて、呆けた顔を浮かべてから、ネルは野太い声を張り上げガッツポーズ。




