魔術教えて♡
それを願ったところで、無駄なことに違いないと考え……口にすることはしなかった。迷惑であることに違いは無いのだが……。
「納得いかんのじゃ! こうなったら、ウルの奴めに黒い肌のエルズュリの加護を降ろして、ツガータと電子音させてやるのじゃ!」
自分ひとり難じられ――その後は和気藹々と朝食を摂る、俺たちの様子に腹を立てたのか……ヴィルマは一人、食堂から駆け出して行く。
朝からまた……なにやら、ロクでも無いことが起こりそうな気配……。
ウルリーカとの森の中での一件が、皆に知れ渡ってしまったあとではあったが――。
デシレアと約束した手前、射撃練習を日課とすることを決めた俺は、レンジに向かうため席を立つことにした。
きっと昨夜の非道を難じられる、この場から逃げ出す口実くらいには……なるに違いない。
* * *
「魔導書と言うものはね。義兄様。軽々しく魔術を身に着けられるといった……都合の良いものでは無いの」
地中の奥深く、脈窠に産出する黒い水晶に囲まれて、全てが黒曜石で作り上げられた墓所の様な城。その片隅に建つ、図書館の本棚を前にして――黒髪と黒い瞳、白磁を思わせる肌の義妹、オーサにそう説明される。
「……まぁ、俺の読解力で、どうにかなるとは、最初から思ってはいなかったけどもな。やっぱり……凄く難しいのか? 象牙の塔に籠もる覚悟が必要だったりするのか?」
以前、ネルから耳にしていた魔導書についての半可通の知識。
多くは古代語、上位古代語、古王朝諸語といった――俺も習得には酷く骨を折らされた、これらの言葉で記された本。
読み解くことで、この世界には存在するという「魔術」を学ぶことができると聞き、義妹の住まいに暇つぶしがてら、アレコレ持たされた手土産を片手に押しかけて、本当に興味本位で訊ねてみたと……まぁ、こういう次第。




