むごいことをした
拘束を拒む獣のような抗いをみせる彼女だったが、ネルが連れて来たオーク娘のパワータッグを相手に、さすがに成す術無く、取り押さえられ――俺から引き剥がされる。
ウルリーカを2人に任せ、笑い転げる俺を
「アンタ。ウルサイわよ!」一言、叱りつけ
ウルリーカに事情を訊ねようとしたところで――ネルは、呆然。
「……ウルリーカ。あなた……その顔、どうしたの?」
一同揃って、彼女の顔を覗き込む。
生来の彼女の肌の色を一顧だに省みた様子が伺えない白塗り。
左右の眉を描く過程で――バランスが悪くなり続け、焼き海苔を貼り付けたように分厚くなった雄々しい描き眉。
唇のラインを上下、大胆にはみ出した真っ赤なルージュは辛子明太子の様で、顔のパーツの出来の良さを激しくマイナスに主張。
ペニー・ワイズのピエロのメイクにも見えないでも無い……かも知れない。
塗り絵の如く重ねられた、濃い色合いのチーク。
アイ・ホールには、殴られた顔を想起させる、濃く大きく広がるシャドウ――勇気を振り絞り、俺に迫ってくれた彼女の その顔は。
今や、流す涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃにメイクを崩れさせてはいたが、控えめに言って……いや、どう贔屓目にみても――ステージ上のパンク・ロッカーのそれ。
そんなものが深夜。寝起きにピンクな空気を纏って(?)迫って来たなら、俺の この反応も仕方無いのでは、無かろうか。
(……すまん……すまん……笑っちゃいけないのは……分かる……分かるけど……無理ぃ)
* * *
「なんでじゃ!? なんでわしが怒られねばならんのじゃ?! わしと、もっとも仲の良いロア。美と恋愛と結婚と出産を司るエルズュリ・フレイダにアドバイスを受けて、一生懸命! 丁寧に! わしが化粧を施してやったのじゃぞ! それに文句を言われるのは心外じゃ!」




