彼女のプワゾンの香り
眠りを妨げられるのも遠慮したかった俺は、枕の半分を無血開城するように明け渡し――寝返りを打って、腰をおろした彼女に背中を向ける。
少しすると、もぞもぞとベッドに入り込み、甘えるように背中にしがみついて、いつものようにくっついて来た。
あちらで購入したディオールの「優しい毒」の甘い香り。
テスターで気に入って、購入したネルが好きな香り。
……こうして、2人くっついて眠っていると、ネルたちが用いる「つがい」と言う表現。
体温と穏やかな寝息を的確に伝える表現に思え……て…………。
――唐突。
背中を向ける俺の身体を、肩を掴んで強引に仰向けにすると、馬乗りに跨って――彼女は胸に顔を埋めて来た。
疲れ果てて……就いた深い眠りから突如、引き上げられたかのようなーー高い水圧に暮らす深海の魚が、浅い深度に無理矢理引き上げられるかのような……。深度差、いや違う……しんどさ。
いつものように、また欲求不満でも溜まっているのだろうと察するものの……眠たくて仕方無かった――。
しがみつくように胸に顔を埋めて、馬乗りになった彼女の髪を撫で……今夜は…………お相手を……………………、ご辞退……申し上げ…………
彼女の髪を撫でる手から――感じる違和感。
億劫さから目を閉ざしたままで、違和感の正体を手で探り……突き止めようと試みる。
「……ふぅ~……ふぅ~っ! ふうぅ~っ!」
不可逆的な……と言った感じの、一方通行に強くなっていく彼女の吐息。
どうやら……寝かせて欲しいなどといった泣き言は――いつものことで、許しては貰えないらしい。きっと自慢のロケットおっぱいを夜通し、暴力的にまた振るわれ続けるのだと、諦めようとした……そんな時。




