羊さんは、狼さんに囲まれて
不気味を通り越して、悪い予感が胸を渦巻く。
(……銃を狙っている……とか?)
夕食を終えて風呂に入り、部屋に戻る途中、廊下で見かけた彼女は、なにやら必死にネルに拝み倒し――ネルも、それを嬉々として快諾しているような空気の場面にも出くわした。
2人が、なにを話し合っているのかは知りようもなかったが……。
盗み聞きするのも気が咎めた俺は早々に、その場を立ち去ることに。
寝室に戻り、ベッドに横になって――陶片を弄っていると、
ノックも無い扉が騒々しく開き、ヴィルマが走り込んで来る。
「あぁ~っ いそがしいのじゃぁ~。いそがしいのじゃぁ」
きょろきょろ部屋を見回し、ネルの鏡台を目にするや――そちらに駆け寄り、引き出しを引っ張り出してアレコレと漁り始める。
「ノックぐらいしろっ。あと勝手に漁ってるとネルに引っ叩かれるぞ」
――こいつに関しては。ちょっと、そっと叱ったところで……と、焼け石に水といった感じではあったが、お義理程度には叱っておかなくてはなるまい。
「ネルには断っては来たのじゃ。ノックは気が向いたらの? 別にファ(電子音)の最中と言う訳でもあるまい。わしと、おぬしの間で細かいことは無しじゃ♪」
『細かいことは無し』それは、お前がこの場で口にするセリフじゃないだろうと、声を上げようとしたが、ヴィルマはネルの化粧品をいくつかふんだくると――来た時と同じように突風のように走り去って行ってしまった。
「なんなんだ……あいつ」
言うも虚しいことを口にしたものだった――。
射撃練習のおかげで、耳の中では拳銃の発砲音が鳴り続けていたが、寝室にネルが戻って来るのを待つことも無く、一足早く眠ることに。
眠りに就て、しばらくが経った頃。部屋の扉が開く気配に、ネルが部屋に入って来たのだと思った。
いつものようにベッドに腰を降ろしてから、柔らかなブロンドを――俺の顔に擦りつけるようにして、枕の上に自分の領地を確保しようと侵略して来るに違いない。




