糸車を回すアラーニェ
スコラスチカが楽し気な鼻歌を歌い、蜘蛛の下半身の腹部に存在する――糸疣と呼ぶらしいが、出糸突起の前に存在する篩板から、糸を吐き出し続けていた。
それを傍らに跪いた有栖川さんが、古風な糸車を回して一纏めにして、できた束をデシレアに見せつつ、小声で、なにやら話し合っている。
「……充分な太さかと。染料には草木を用いるか……デルクスか、ラナセット……いえ、イルガランを用いて染め上げれば、宜しいかと」
珍妙な生物を胸に抱き、顔を埋めてしばらく。まろ眉を✔ マークを思わせる形に、しかめ続けていた可愛らしい主が頷く。
主従での検討結果を伝えるデシレア。
「スコラスチカ? 貴女の糸を買う。希望する価格を教えて。契約書については有栖川に聞いて」
どうやら商談は成立のよう。
「ハ~イ♪ それじゃあ色男さん? 色々、教えて?」
有栖川さんは、スコラスチカを伴って別室へ。
「しかし、蜘蛛の糸で……紡績を……ねぇ?」
「わたしの力では、実現が難しい素材特性を持ってるし貴重だと思う。おねーちゃんの領域にいる限り、糸は疲れ知らずに吐けるだろうし……充分な生産量の確保が見込めると思う」
この小さな経営者様は、慧眼をくりくりと輝かせてみせる。
鉄の5倍の強度とナイロンの2倍の収縮性、加えて生体素材と、その応用範囲をデシレアは語って聞かせる。
「あっ!」なにかを思い出したかのような声「もちろん、この領域あってのことだから……ん~……でも、おねーちゃんにお金渡すと、絶対お酒に変わっちゃうよね……」
(流石! 良く分かって、いらっしゃる!)
デシレアは再び、眉を鋭角に傾けると
「おにーちゃんの、あのお家を貸して? そこでスコラスチカに糸を紡いで貰う。それなら、おにーちゃんにマージン支払えば、それで良いよね?」
見事な迂回策を提案。
そして実の妹に、ここまで信頼されないアイツも一体なんなんだ……。
 




