依頼者と対面
暇を持て余して断る理由も、特に無い俺は――ご希望に応じることにした。
彼女の話は森の中を進み、屋敷に戻る途中の道すがら聞かされていた。スコラスチカが興味を示した、この身体のデタラメな再生力。
彼女はやはり――その様なモノでは無く、それ自体では無く。
誰かを癒す方法を求めていた。
そして、その力をもたらすボトルを是非、少女に使って欲しいと――、それまでのイメージを、かなぐり捨てるかの様に懇願した。
「スコラスチカはね? コレを……って」
現世の薬局で購入してきた100mℓのガラスの小瓶、淡い琥珀色のジュースを手渡す。
「これは?」
不自由な目の代わりに、まず手で瓶の形を確かめ――顔を瓶に、くっつけんばかりに近づける少女。
「目を治す薬だってさ。貸してみ? 開けたげるから」プルトップを引き、蓋を剥がす様にして瓶を開ける。瓶の口から微炭酸が弾ける音「……少し、刺激があるかも知れないから注意して飲んで?」
少女は、恐る恐る瓶に口をつけた。それに合わせて、後ろ手に隠し持った『ボトル』に彼女の目を癒すように頼む。
みるみる彼女の目が、焦点を取り戻すのが、表情となって表れ、「奇跡」と彼女は、口にする。
食物繊維とビタミン過剰な、製薬会社のジュースに――そんな奇跡を起こすなんて、できるハズも無い訳だけど。
目が見えるようになった喜びを、噛みしめるのも束の間――少女は再び、スコラスチカの安否を訊ねてくる。
「心配しなくても……髪が伸びたら、また切って貰いに来るってさ」
俺の言葉に安堵の吐息。再度、彼女は喜びの声。
念のため、しばらくは、日中の強い光に気を付けるようにと言って聞かせ、近所だという彼女の家に、スキュデリに頼んで送り届けて貰う。
 




