おっぱい払い、足場固め
「完璧に整い過ぎると、やれ『人間味が無ぁ~い』とか? やれ『不気味の谷がぁ~』って、誰彼、好き勝手に言い始めるでしょ?」
「………………」
「つまりはね? 生まれながらにして、あらゆる存在の頂点に君臨する、龍であるこのアタシには──ツケ入る隙と言うものが、添えられて……」
泣きボクロを見せつけるように、顔を近づけ
「初めて! あえて切り欠くことによって、美しさ際立つ──ギリシャ彫刻のトルソーの如くに、その魅力は完成を迎えると……そーゆう、訳ですよ♪ 旦那」
──溜息が、ひとつ口をついて出た。
「長々、要らん説明を聞いて損した……俺の時間を返せ」
「……ご、ごめんなさい。……お、おっぱい払いで、お願いします」
大根丸出しの、安っすい悲しみに暮れる表情を作ってから、胸を差し出す彼女。
てか、なんだ? おっぱい払いって。
言いたいことは──、分からんでもないが。
「それを口にしたら、また容姿が元に戻る期間が伸びちまうんだろ?」
「でも結局、毎晩欠かさず、ちゅうちゅう♬ 吸っちゃってるわよねぇ~?」
「……おのれ……おのれぇ……まったく話が進まん……進みゃしねぇ……」
「──? で? なにか御用だったの?」
重ねた食器をテーブルに置いて、ようやく話を聞いてくれる御様子。
……聞いてくれると、イイなぁ。
「こちらの世界にも人住んで居るんだよな? ……って、ことだよ」
「まぁ、普通に。それがどうしたの?」
「言葉とか、こちらの人たちの生活のこととか、色々教えてくれよ。どーせ長く、何年も、こちらに留まることになるんだろうしさ?」
「なんだ……そんなこと? 別にイイわよ♪ でも……スパルタで行くから、覚悟しなさいよぉ~?」
意地悪そうに目を細めて、ネルは外連味を利かせた表情を作ってみせる。
「お手柔らかに頼むわ……」
たったこれだけのやりとりに疲れ果て……また溜息が、ひとつ口をついた。




