埋火
土と鉛で汚れた指先が軋む。
作業を終えると俺は、ウルリーカに声を掛け、茂みの影から姿を現した。俺と彼女の距離は目測で、15mほど。
「やぁ~っと、その気になってくれたかよ? ツモイよぉ」
剣で肩を叩き、嬉しそうな表情――。
「ぼちぼち……あっちの蜘蛛から片付けようかと思ってたところだったぜ」
「いやぁ……無いだろ。お前が俺を放って他に目をくれるとか。お前たちからしたら、俺は……ツォンカパの教えを詰め込まれた、御馳走なんだろ?」
身の丈に合わないことを嘯いて、ウルリーカの注意を引き付け……あとずさる。
「……? 俺の人喰い牙はどうしたよ? さっき必死に取りに走ってたろ」
先ほど手に入れた、アフリカ大陸の投擲武器を持っていないことに気づくと、ウルリーカは嬉しそうに顔をゆがめる。
「なに考えてんのか知らねぇが……楽しませてくれんだよな……ああ?」
「俺の宴会芸が、ご期待に添えるかは……わからんけど……。どうだろうね」
あとずさり、ウルリーカの歩みの先を気取られないように誘導。
先ほど身を隠していた茂みの側まで、彼女が近づいたのを見計らい――俺は踵を返して走り出した。
「なんだそりゃ?! この後に及んで、追い駆けっことか! ふざけてんのか!?」
怒声をあげて、ウルリーカは最短距離を茂みを突っ切って、俺に向かって駆け出すーー同時に。
軽い、乾き切って大気中をすぐに減衰し始める、ヘボい破裂音。
樹上に退避して、成り行きを息を潜めて見守っていたスコラスチカも「きゃっ?!」と、声を上げていた。優れた感覚器で振動を感知する、蜘蛛の能力を彼女が持つことを想像するなら――申し訳無かったが。
振り返ると、音に反比例して、派手に硝煙が立ちのぼり、血塗れになったウルリーカが仰向けに、茂みをクッションにするようにして倒れていた。そして近寄ろうとした瞬間――。
静かに持ち上げた左腕、哲学者の花篭と言う名の凶器の塊、ゴテゴテと取り付けられた武器の内、小剣の2本が俺に向けて――発射された。




