ちちぢから
「ここには、アタシが認めた相手以外、普通は入り込めないハズなんだけど……たまぁ~に入り込んで来る例外も居るのよね。花さんも、そうなんだけど。ここに来てから小太郎くんを産んで居着いちゃったのよ……」
「なんかまるで……。最近、御近所に越して来た、ゴミ出しのルールを守ってくれない、困った奥様の話でも……してるみたいな話ぶりだけど……。相手は、正真正銘の人喰い熊な訳だよな?」
「でも『食べる分』だったら仕方無いじゃない? 花さんも『人間なんて、骨ばかりで食べる所も少ないし……美味しくも無いから、ホントは食べたく無かった』って、言ってたわよ?」
(花さんの胃袋に納まった農夫が哀れでならない……それよりも、素で怖ぇよ)
窓の外を見てみると先程から、コチラを覗き込んでいる花さんと目が合う。
『人を喰ったことがある』と言う、花さんのプロフィールを聞いた後では──この熊の、俺を見る視線が、獲物を品定めする目に思えてならない。
(実際、俺はこいつに頭を割られ…………)
「てか、さっき俺は……その熊に襲われて……。なんで生きてるの……俺?」
「……それは多分。アンタが飲んだ、アタシのおっぱいの影響じゃないかなぁ……と」
「おっぱい?『この場所』だからと言う訳じゃなくて?」
「……多分」
おっぱいの効能についての情報が追加された瞬間。
「あの時『声』が届いたから慌てて駆けつけたんだけど……。その時には、花さんに壊された頭は、もう元通りに治ってたわ。花さんにも……ちゃんと前もって、アンタを紹介しておくべきだったのにね。……ゴメン」
「……身体も……問題無いようだし……いいよ……もう、別に」あまりにショックな言葉に──力無く返した後で
「ところで、ひとつ疑問なんだけど……」
「なぁに?」
「生まれ変わる以前の俺って、お城だった巣の途中にあった、岩棚で足を滑らせて死んだって聞いたけど……。この出鱈目な再生能力が、おまえのおっぱい吸って現れるんだったら……その時の俺って、死んで無かったんじゃね?」




