まさか自宅警備員なんてものになろうとは……
嬉々としてテラスのテーブルでテキストをめくる、ヴィルマの様子を見る限り、この調子なら段階を踏んで、こちらの言葉を習得することも――賢いこの子であれば、そう長くはかからないに違いない。
「ツガータ? ファ(電子音)って、こちらの言葉でなんと言うのじゃ?」
「んな言葉は覚えんでもいい」
「なんでじゃ! それじゃあ一体、わしはどうやって、ツガータを誘惑すれば良いというのじゃ?!」
「っせんでいい!」
「……本当に、本当にツガータは……おっぱい星人なんじゃのぉう。世の中……おっぱいが総てでは無いのじゃぞ?」
「……………………」
そんなやり取りを経て、こちらの世界。シルウェストリスで、だけでも……こいつの言葉使い、振る舞いは――何とかしなくては……と。俺は再確認。
* * *
あちらに置きっ放しと言う、雑な扱いをしていたにもかかわらず、トキノのお陰で問題のひとつが片付き、肩の荷がひとつ下りた。その一方で――いや、当然と言えば当然のことではあるけれども、俺は再び退屈を持て余すようになった。
(ネルの領域の中に引き籠ってる訳だし? そりゃあ……まぁね。異世界にやって来ているからといって、毎日なにかと戦って暮らすような展開も無いわな……あっても困るが)
取り留めも無いことを考えつつ。やることも見つからない俺は、広い屋敷の中を、ぶらぶらと歩きまわる。まさかこちらの世界に来て、自宅警備員みたいな真似をすることになろうとは……。
図書室の扉を開くと、製本化された真新しい本が、わずかな一角を占めていた。
(……言語関連の書籍は、国会図書館なんかに送られても困るし……日本語と英語でそれぞれ記した物を、印刷屋で極々少数を製本化した)




