ヴィルマのために、えんやこら
今や、それなりのまとまった金を自由にできる身となっただけに、ヴィルマに帰国に必要な旅費を手渡して
無理矢理にでも、故郷アンティグア・バービュータに帰らせるということも考えはしたが……。その都度、ネルを味方につけたヴィルマの激しい抵抗に会い――それは毎度、ことごとく失敗していた。
――そんな訳で、ズレつつある話を元に戻す……と。
ネルにコチラで一般的に用いられている共通語を教えて貰った際の経験から、その修得難易度の骨の折れ具合を、身を持って知っていただけに
たとえ初歩的で、触りだけしか学べないようなものであったとしても、それを編纂することには意味があるものと俺は考えていた。
軽快とはほど遠い、タイプ音を立てて――部屋に篭って作業を続けていると、扉をノックしてネルがオーブンで何かを焼きあげた時に漂わせる、香ばしい香りを纏って、ご機嫌な様子で
「アタシってば天才♪」
そんなことを口にしていたと思うが……お茶を淹れたポットを乗せたトレイを手に、やって来たーーつがい。
どうも……その辺りは記憶は、少しあやふやで……良く思い出せない。なにかに集中している時の俺には、良くあることではある。
「や~っ♪ やっぱりアタシってば、お姉さまなだけのことはあると思う訳よ」
「……おお」
「クィンヒルデのお弁当にねぇ? なに作ったか聞きたい? 聞きたい?」
「……おお」
「そんなに聞きたいのォ? 仕っ方無いわねェ♪ 前に店長さんに作り方を教えて貰ってたアッシ・パルマンティエ~♫ 焼き上がりも最高。あ! アタシたちも、お昼はこれだから心配しなくても食べられるわよ?」
「……おお」
「ちなみに、デモピレさんのおっぱいで作ったチーズ、少しちょろまかしたわよ?」
「……おお」
「……ねぇ?」
「……おお」
「話聞いてる?」
「……おお」
「なんだかアタシ、想像妊娠したかも知れないの……勿論アンタの子よ?」
「……おお」
「聞いてない? 聞いてないのね? そっかぁ~♬」




