スローリィ・キー・パンチャー
これらの書物は……と言うか識字率も、そこまで高くは無い こちらの世界で、貴重どころの話では無く。
幸いにも、ネルやデシレアの……一番下の妹のオーサは、図書館一杯の、様々な蔵書を所有しているらしかった。
そしてそれらの本は、ネルを通じて――。
……多分、いつも心良く、貸し出して貰えていたのでは無いか……と思う。
正直、シルウェストリスにやって来たあの日。
彼女と顔を合わせて以来、ネルを通じて、やりとりをするばかりで、直接顔を合わせることは一度も無かっただけに――実際の所は分からないが……。
なにはともあれ、その画像データをノートPCに落とし込み、参照しての入力作業を、地道に地道に……。時間を見つけては、根気良く続けてきていた俺だったのだが――ヴィルマを連れて、こちらに戻って来て以来、その作業ペースを少しばかり上げつつあった。
いつかは俺たちの元を離れて、故郷に戻らなくてはならない彼女ではある訳だが――多感なあの年頃の子が、俺とネルとデシレア。
あとは有栖川さん以外に、言葉も通じない者たちに囲まれての生活に、なんらかの好ましくない影響を受けるかも知れないと危惧したことが大きい……。
多少のコミュニケーションが取れるくらいのHow to本、……的な物くらいは渡してやりたい……。
しかし、まぁ……当然ながら。
気は急くものの……ヴィルマのために手引き書なりを編んで手渡すことすら、かなり先の話になりそうな気配。
そうそうに終わる作業量では無いことは、最初から理解できていた訳だが――。
とは言え、故郷に戻るそぶりも、帰りたがる気配も見せない当のヴィルマが いつまで、こちらに居るつもりなのかも、杳として知れない以上……。
この作業は、できる限り早い内に済ませてしまいたかった。




