泉へ
芋の細長い蔓を、手で引いてから、丸々とした立派な芋を掘り起こして、手で土を落として笊の上に転がす。
すると今、掘り返したばかりだと言うのに、畑の崩れた畝の中には、もう大きな芋が、ゲームのバグか、グリッチか なにかの如く、元からあったかのように、そこに現れていた。
このことをネルに問い質すと
「ここは、私の存在で満たされた領域だから、シーズンを問わず、畑のお野菜も果物も実り放題。放し飼いのロキシーさん……鶏さんのことよ? 気合い入れて、卵を、じゃんじゃん産んでくれるの。み~んな私のために、その身を供物として捧げて、奉仕してくれるの。凄いでしょ~? 食費0よ? 食費0。エンゲルさんを顔真っ赤にして、キレさせる自信があるわ♪」
信じられないことに、そんな風に──まるで、冗談みたいに軽々しく。
しかも、この畑に実る作物は、ネルから──
「必要な分だけね?」
と、だけ言われてはいたが、連作障害のようなものとも無縁に、際限無く収穫ができるらしい。
その上、味も地味 豊かで、どれもこれも大変な美味。
「……でたらめにも、ほどがある」
何十種類もの作物に、麦に、果樹が、節操無く過密栽培される この100平米程度の畑ひとつあれば、食うに困ることは一切無いだろう。
派手さには欠けるが、彼女の見せる――神の御業そのものな力を、いつの間にか受け入れ始めて、感覚が麻痺しつつあった俺は
(この小さな畑一面で、世界に、とんでもない影響を与えかねないのでは?)
そんなことを漠然と考えつつ、いつもの泉に収穫した野菜を洗いに向かっていた。
* * *
泉は小屋から歩いて そう遠く無い場所で、蒼い清水を滾々と湧き出させていた。
底の水が湧き出している箇所では、細かい砂利が水の勢いで、激しく巻き上げられ──吹き上がるのが見てとれる。
水を汚すのは気が咎め、泉から流れ出す小さな支流の、出来るだけ下流に陣取って、野菜に付いた土を洗い落しにかかる。




