そして日本人の俺は、休日を持て余す
「それに群れを掻き乱すほど、アタシはバカな生き物でもないもの」
「……確かに」
コイツは空気が読めないのではなく、自身を基準とした上で、空気を読むか否かを秤にかける奴なのだ。なんとなく理解したのは本当に、ここ最近のことではあるけど……。
デシレアの住まいでのコイツとのバカなやり取りを思い出す。
コイツは――あのどうしようも無い……本当に、くだらないやり取りの顛末の中で、自身の執着する対象の『俺』を選択するために、本能に根差した抑え難いまでの自身の怒りをねじ伏せてみせたに違いない。
……多分きっと。でないと……そう考えないと……。
俺もコイツも……バカップルどころの話ではない。
「頭……大丈夫?」と心配されざるを得ないほど、可哀想な奴らになってしまう。
別に今更……といった感じではあるけども。
「さてと……クィンヒルデが、お外に仕事に出掛けたなら、お弁当持って行ってあげなきゃね♪ んー……。あの娘……なにが好きだったかしらね……」
大きくなって、機能も拡大した厨房に向かう、ネルの後ろ姿を見送り。
俺は、久しぶりに訪れた、一人、なにもやることの無い一日と言うものを、どう過ごすかと考え――立ち尽くしていた。
* * *
(さて、とは思ってはみたものの……なにをしよう)。
外は、穏やかな陽気で晴れ渡っていた。湿度を感じさせない気候のお陰から、そこまでの猛暑に見舞われることが少ないこちら。暦の上では夏を迎えていたもの、過ごしやすかった。外で何かをするのも良いかも知れない。
外に出てなにかを――となると、一番に考えつくことは馬たちの世話な訳だが……。
今は、特にやること……と言うか、出来ることが無い。
馬の足に嵌める蹄鉄は、先日ネルとデシレアが連れ立って、馬たちの元へと赴き、熟練の装蹄師の作業でも追い付かないほどの……いや、目にも止まらない速さで完了させてしまった。




