事実は、再び闇の中へ
「……経典に記された内容の事実がどうあれ」彼女は、ひとつため息をついて「事実を知らしめることで、信徒の方々に無用な動揺を与えると言うのであれば……私は、この身の上に……喜んで甘んじようと思います」
「……ことの関係者の俺が言えた義理じゃないかも知れないけど……酷い話もあったもんだな……こりゃ」
つまりは教会側が、自分たちが長年築き上げてきた権威を守るために彼女に命じたことは、とどのつまり――臭いものには蓋。緘口令。
「そんな訳で」彼女は立ち上がり「あらためて……。これから、お世話になります」
胸の前で手を組んで俺に向かって頭を垂れる修道女。
「気にしなくていいよ……。なんだか……俺も凄く責任感じるしさ。それに……」
「それに?」顔を上げて、小首を傾げて見せる彼女。
「あんたが生きていることや、事実が大っぴらになってさ? 教会側に……あんたが暗殺とかされても寝覚めも悪いしさ……」
有り得そうなことだけに、そのことが心配でならなかった。
「まさかぁ」さもバカバカしい話と言った感じで、口元を隠して笑う彼女。
(なぜ無邪気に、そう思えるのか?)
教会は、自分たちの組織と権威を守るために、女神アレクサンドラと同じく、彼女を切り捨てて見せたと言うのに……。
彼女の境遇を聞いた後で、自身の視界が涙で歪むのを感じ、現実を押し付けるのも躊躇われて、自然と目頭を押さえ……それ以上を話すのを止めた。
「……やっと、落ち着いたばかりだってのに。色々……根掘り葉掘り聞いちゃって……悪かった」
* * *
「んんじゃ、行って来るぜ!」
「しばらく、お留守に致します御屋形様……」
ギルドの仕事を回す目的で登録した俺たちであった訳であるから《殉教した聖女メルトゥイユのお話》を聞きつけて、登録希望者が大挙として押しかけている今、別に俺たちが仕事を受けてやる必要も、もはや無い訳だったが……。
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