父の云う動物園に悲しい思い出
この馬の調達に関しては、同行したネルにも、その着想を称賛されもしたけれど――実のところを明かすなら……あまり自慢になるような、お話でもなく……。
子供の頃の話ではあるけれど……俺は休日になると、いつも父に「春夏秋冬! 動物園に行こう!」と連れ出されていた。
その場所が、なにを隠そう……なにを隠し果そう! 動物園などでは決してない、大人のためのワンダーランド――競馬場。
子供心に「……なんでいつも、お父さんに連れて来て貰う動物園には、お馬さんと、オジサンたちしか居ないのだろう?」そう思ったものだった……。
しかし、まぁ……。記憶違いでなければ。レースの優勝馬の背に観客席最前列に居たことを理由に――騎手の御厚意で乗せて貰えたなどの楽しかった記憶も、それなりにあったりはする……。
そんな次第で小学生の頃に、夏休みの思い出などといったお題で、作文の提出を求められた折りには、俺の作文の動物園に登場する動物は――いずれもパンチの利いた名前の名だたる名馬ばかり。
気が付いてみれば俺自身。そんな幼少期を過ごしたお陰からか、ダメな親父の元で育ったせいかは、良く分からないが――。
馬に対しては、人並み以上の知識を身に着けてしまっていたと……そんな訳だったりする。
まぁ……馬の持つ優し気な眼差しと、長いまつげ、なびくたてがみと、躍る尾の流れを見て――それを美しいと感じないでもなかったが。
(あの親父……あの親父だけは……)
ぶっ飛ばしてやりたくなる衝動が、ふつふつと湧き上がり出す。それを堪えるようにして、拳を握りしめていると――
「……どうか、なさいましたか?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる、白い肌が眩しいメルトゥイユのーー整った顔が近くにあることに気づき、心配の必要は無いことを慌てて彼女に、突き放すように




