この空気……俺のせいなの?
湯で顔を洗い、湯煙の向こうを、ぼーっと眺め――自分でも測りかねる彼女への想いに対して、自嘲めいた調子で呟いていたかも知れない。
「――? ……どうした?」
俺の言葉をいつもの調子と呼吸で、茶化すネルの返しを待っていたと言うのに。
いつまで待っても、それが返されることは無かった。
湯で弛緩した身体を動かすのは億劫で、首だけを巡らして、ネルの側を向く。
「……………………」
ネルは驚いた表情で目を丸く見開いて――湯に浸かっていたこととは理由を別にする、桜色に染めた顔を俺に向けて固まって。
「さっきの……オッサンキャラは、どこ行った? ……思春期か」
俺は、重ねて声をかけたが、ネルは、それにも反応を見せない。……なんかもぉ~本当に、コイツの羞恥の境界線が、まるで捉えきれない。
しばらく経って、ようやく我に返ったネルは、そそくさと湯から上がると「ゆ、湯あたりしちゃうわよ?! 早く上がりましょ?」慌てて身体を雑に拭き上げ、逃げ出して行く。
「ああ……もう。なんで俺が、イタいこと言っちゃったみたいな空気になってんだよ……」
残された俺は一人、指先に縦に皺が寄るまで、湯に浸かって大浴場を後にした。
* * *
「ツモイさんって、稀人だったんですか?!」
デシレアからの贈り物。新居となった、その屋敷の傍らに新たに造られた、およそ2000平方メートルの馬場。兼、ネルによって牧草が青々と茂らされた、放牧地を走り回る馬たちを見ながら、地面に腰を下ろしてメルトゥイユと話をしていた。
「稀人?」
「道理で……変わった……お名前だと思いました」メルトゥイユは驚いた表情のまま、不思議な生き物を初めて目にする人のような目で、俺を見て納得した表情を浮かべる。




