パブリック・エネミーとしての就職が決まってしまった……。
変わり果てた様子の彼女の哀れさに涙を浮かべそうになるのを堪えていると――
「では、これは口止め料になりまーす、あ、違いました。心付け? 賄賂? 献金? 袖の下? みかじめ料? まぁ、どーでも良いですよね♪ お金はお金ですしぃ。あはははっ」
(……やっぱり、無理。俺……涙溢れちゃう)
彼女は鞄の中から重そうな麻の袋を4つ取り出すと、それを無造作に俺の前に並べて見せた「金貨400まぁい♪ 重たぁい」
「き、金貨400枚?!」
「ちょ、ちょ、ちょっと!」突然、それまでの不機嫌はどこへやら。並べられた麻袋を前にしてネルは「あっのぉ~? 袋開けて中……見ちゃっても良いの? これ?」現金にも――恥も何も無い様子で、その声どこから出してんだ? と、訊ねたくなる猫なで声。
(……ネル。俺ね? たまに……お前のこと……なんで、こんなにも大事に思えちゃってるんだろうなって……疑問に思うのとね? 凄ぇな俺って……自分を自分で、感心しちゃう事があるんだ)
ネルの態度の急変を、不快に思う様子も見せずに「どうぞどうぞ」特使として訪れた彼女は勧める。
「えっへっへ♪ わっるいわねぇ?」いそいそと袋を閉じる紐を解いて、中を覗いたネルは――言葉を無くしていた。
「アレクサンドラ金貨400枚になりますが……不足でしたかぁ? ひっそりと動かせる分が、それだけだったらしいんですよぉう。とりあえず、今年の分ということで我慢して下さいねぇ~?」
「こ、今年の……分……?」
シルウェストリスと、日本の物価の比較が難しかったために、俺は少し前に、このアレクサンドラ金貨の重量をデシレアの住まいで、彼女に頼んで計らせて貰ったことがあった。
重量は1枚当たりおよそ30g。デシレアによれば、その金の比率は99・99%とのこと。
(日本円に換算して……年間で、およそ1億2千万円前後)




