身の丈に合わない物件
「メトレス・マリアの教会より広いのじゃ!」
興奮した様子で屋敷を走り回る、ヴィルマと一緒に歩き回っていたデシレアを見かけ、声を掛けようとしたが、その表情は対照的で
まるで自身の建築作品の出来を評価して回る建築家か、デザイナーといった……険しい表情をその幼い顔に浮かべ、太く短い眉を寄せていた。
「……やっぱり、コンクリートと鉄骨で建てた建物は……デザインに自由度が持たせられるけど。わたしには木材が扱えないから……住まいとしては、安らぎと言うものから遠退いてしまっちゃってる……。クロスも絨毯も、カーテンも石油から作ったものになっちゃうから、少し安っぽいかも……(んなことは無い)。扉は、ガルバリウム鋼で作ったけど……息苦しさと冷たさがある。これは樫材の物に替えた方が良さそう……。調度類や、シャンデリアなんかは、磁器やクリスタルが使えるから、特に問題が無いけど……」
一人、ぶつぶつと呟き――小さな頭の中で黙々と、考え込むデシレアの後ろ姿に苦笑いを覚える。こちらは、君の御厚意で頂いてばかりの心苦しさなんですが? 文句など言いようも無いし、そんな厚かましさを、持ち合わせているつもりも自分には無い。
しばらく、デシレアの様子を眺めていると――俺に気づいた、この凝り性過ぎる子は、振り向くなり明るい調子で
「エレガントに整えるなら、あとは有栖川を呼べば、完璧だよ♪」
そう提案を持ちかけてくれた。
……が、そのデシレアの言葉は、丁重に御遠慮申し上げることにした。これ以上、この子の世話になりっ放しというのは――。
「……世話になっておけば良いのに」ネルは、つまらなそうに言って「どうせ、この子からしたら、大して難しいことでも、手間でも何でも無いんだから」
遠慮知らずな言葉をズケズケと――。
姉の態度が少しばかり勘に障ったのか、諫言を呈してみせるできた妹、デシレア。
「……おねーちゃん? 今度は、この家を売ってお酒なんか買わないでよ?」




