このツッコミは、封印
掛ける声が聞こえているのか、聞こえていないのか。分からない様子ではあったが……彼女は、そう言われてしばらくすると、ヨロヨロと立ち上がって、プレァリアの街に夢遊病者の足取りで帰って行った(……大丈夫、だろうかね)
立ち去る彼女の、うしろ姿を見送り、心配ではあったものの――こちらも、こちらで、この惨状。ついて行くという訳にもいかず、気を揉んでいると、デシレアが作り出した、甘い香りの気体を肺一杯に吸い込んで、意識を失っていたスキュデリが目を覚まし、頭を振って起き出してきた。
事情を話して――彼女の健脚を頼りに、メルトゥイユの後を追って貰い、街までの付き添いを頼むと、そこでようやく騒ぎは一区切り。
(……やっぱ、移動手段が無いのは不便だわー)
現世における交通事情の有難みを再認識しつつ、新しい住まいとなるであろう屋敷の玄関へと足を向かわせる。
やらねばならないことが色々と、ありそう。
* * *
「……なんだか、背後から近寄って来た誰かに……熟成途中のチーズの塊を頭に叩きつけられて……人間だったら、普通に死んでしまっていたほどのダメージを受けて……気を失っていた……気がするわ」
デシレアが勢い余って創り出してしまった――学校か? 役場の建物か? といった規模の、リゾート地に建つ小洒落たホテルを思わせる豪華さの屋敷の中で、ネルは頭を押さえて、自身が負ったダメージを分析してみせる。
(全部、解ってるじゃねーか……)
適当な硬さと柔らかさがあると踏んで、ヴィルマに持って来させたチーズだったが……コイツの言葉に従うなら、これを人間相手にやったとしたならば、大変なことになっていたのかも知れない――ツッコミとしては厳し過ぎるらしい。
以後、気を付けよう……。




