魂魄消失
息もつかずにヴィルマは、捲し立てる。
「デシレアにお風呂と、おトイレを作って貰うハズだったのじゃが! 出来上がったのはファッ(電子音)ン! なデカさのお屋敷なのじゃ! 部屋の数も凄いのじゃ!」
(……この子には、返さないといけない金も、残ってるんだぞ)
ネルが作った借金の額も良く分からないと言うのに……。世話になりっ放しのデシレアに申し訳無くも――どうしたものかという考えが、頭をもたげる。
ネルは あのような形で借金を返したつもりかも知れなかったが。仔細を聞く限り、それで完済したと言い張ろうなどとは……とてもではないが、その様な気も起きない。
ありていに言えば良心が咎める。
「別に気にしなくて良いんだよ? おにーちゃん」俺の考えを読み取ったデシレアは、こちらを見上げ「わたしにとって、難しいことじゃなかったもん。おにーちゃんにプレゼントした物みたいに構造が複雑でも、素材の生成も難しくなかったしね♪」
取るに足らないとでも云わんかの気安さ。
「なぁに? お風呂と、おトイレ作ってくれてたんじゃなかったの? デシレア?」
今や、名実ともに伝説の邪龍と呼ばわれるに値する存在と化した、俺が人生を共に過ごして来た伴侶が――虚ろな視線のままの哀れな修道女を連れて戻って来た。
「……なんでアンタ、あの娘たちと子作りしてないで……こんな所で、くっちゃべってるのよ?」
信じられないと言う様子での物言い。俺からすれば、お前の頭の中身の方が信じられん。
「……オイ、邪龍様」俺はネルに吐き捨てるように口を開いていた「どーすんだ? メルトゥイユを人身御供なんかに捧げさせやがって。この人を捕って喰らうとかだったら……流石の俺も許さんぞ?」
物騒に違いない「捕って喰らう」と言う言葉を聞いても、メルトゥイユの表情は死んだまま。
人生を費やして信仰を捧げて来た女神に、彼女は切り捨てられたのだ。
その上、神の敵と教えを受けて来た龍への供物として捧げられたことを考えれば……まぁ、仕方も無い話に違いない。
哀れ過ぎて……なんだか、もう言葉も無い。




