神と言う存在は、いつも言葉が足りない
「……なぁに? あんた……アタシの力を疑ってんの?」
「いえいえいえいえっ?! 違います違います! あまりに慮外の厚遇でしたので……」
「バカねぇ~。この程度のことで。恐縮する必要なんて無いわよ? 残すあの子のことも悪いようにはしないから、安心しなさいな♪」
「あ、で……では……。私は、これで帰らせて頂いても?」
「えぇっ~?! もう帰っちゃうのぉ~? アタシ寂し~ぃ!」
微塵もそんなこと思ってもいないクセに……。ネルは立ち去ろうとする女神を、白々しくも――申し訳程度に引き留める。
そんな女神と――今や、立派に邪悪な『竜』と成り果てたネルのやりとりを、ポカンと呆けた顔のまま眺めていたメルトゥイユは、かすれる声のままに、
「……アレクサンドラ様?」
女神は、先程までの様子を一変させ――熱心な信者に向き合う女神の顔を整えて、鈴の音を思わせる凛とした声で彼女に告げる。
「……我が僕、メルトゥイユ」
「……はいっ」
「貴女は、あちらに座す生命を司る龍に戦いを挑み、敗れ、そして……死にました」
「お?! お待ちください!? 私は敗れてなどいません!! ましてや死んでもいません! まだ戦えます!」
女神の言葉を、まるで理解できないとばかりに、必死に抗議の声。
「……そうですね。言葉を間違えましたね。こう話して聞かせるべきでしたね」
「どう言う……ことでしょうか」
「貴女は……その身を捧げ、そして全ての教徒のために尽くす修道女。そうですね?」
「はいっ! 御存知の通りです」
「よろしい」女神は哀れな修道女の肩に手を添え「……つまり、そう言うことです」
「待って! お待ちになられて下さい! アレクサンドラ様! 意味が! 意味が分かりません!」
「説明が要りますか?」
「要ります!」




