トイレット・ペーパー
「わざわざ確かめる気は、誰にも無かったみたいなのよね……。そもそもが、アタシたち龍と言う存在も、基本的に怠惰な存在で、大雑把なのよ……。この手のことは、アンタの世界の魔術師たちが、やたら詳しいんだけれど……」
また、違和感を覚える単語を、サラリと使いやがった……。
「一応、聞くけど魔術師ってアレか? ラスベガスで、イリュージョン・ショーとかやって見せるマジシャ……」
「違う違う」ネルは手を振って、それを否定。
「数は、多くは無いみたいなんだけれどね?。アンタの住んでた世界にも、それなりに居るのよ? アタシの顔見知りも、何人か居たりするわよ?」
「……マジで?」
俺が、常識と思ってきた世界の姿が、音を立てて……どんどん崩れていく。
「で? お前が考える、若返ってしまった俺に対する、方策と言うのは?」
「つまりこちらの世界で、アンタの元の外見年齢に戻るまでの何年間かを、過ごせばイイじゃないってことよ♪」
嬉しそうにネルは──いささか強引ではあったが、そう話をまとめてみせた。正直……頭が痛い。こんな風呂も無い世界で、どう生活したら良いものか……。
「……ちなみに聞くけど。こっちの世界って……トイレット・ペーパーとか、どうするんだ?」
「トイレット・ペーパー? アタシたちには必要が無いから、あまり詳しくは無いんだけれど……」
そう前置きしてから考え込み、
「ボロ切れとか……。大工さんの所で、溜まった鉋のくずを貰って来たり……。トラディショナルなスタイルとしては、葉っぱだったり干し草だったり……。石とか砂とか……終わった後に、川の水で洗ったり……猫さん戦車みたいに、なにかに擦りつけたり……」
「いよぉし! 無理!! 撤収ぅ!」
今度は、俺が勢い良く、丸椅子を蹴って立ち上がる。
「まぁまぁ♪ まぁまぁまぁ♬」
ネルが宥めようとしてくるが、無理なものは無理だ。




