理解できない修道女と、怯える女神
「アレクサンドラって言うの? あんた? ……ふぅ~ん?」
お局様が、若くて社内でもカワイイと評判になっている女性新入社員に対して、「どう……いたぶってやろうか……」と、思案するかのような――そんな いじわるそうな顔つきで不敵な笑みをネルは浮かべ、女神にマウントを取り始めた。
「初めて会うけど……あんた。……ちょっと若いモンの教育って奴が、なってないんじゃなぁい?」
「へぅっ?!」(あっ……)
女神の様子は、もう見ていられないほどに可哀想なもの。
「アレクサンドラ様! いかがなされたと言うのです!? アレクサンドラ様?! ……なんてこと! 邪悪な竜めっ! アレクサンドラ様! なにか怪しげな妖術をかけられたんですね?! ならば私が代わりに!」
鎚矛を構えて、ネルに向かって駆け出す彼女。
(いかん!)デシレアからネルのことは『喧嘩はからっきし』と聞いていた俺は、その瞬間、メルトゥイユを止めようと――思いはしたのだが?
腰に剣も下げていなければ、指輪に結び付けられていた4丁の拳銃も全て、納屋に放り込んでしまっていたことを思い出して、たたらを踏む。
相手は女性とは言え、武器を手にしている。素手で、どうにかしようなんて無謀過ぎる。
この場にいる者の中で一番早く、動いたのはスキュデリ。
駆け出す修道女の背後から、彼女を拘束して制する動作を、瞬時に選択してみせてくれた。
だが、そんなスキュデリの動きよりも先に、駆け出したメルトゥイユを止めてみせたのは――もはや狼狽の色を隠しようも無いまでに、慌てふためく、女神アレクサンドラ様。
「我が僕! メルトゥイユ! 貴女! ちょっと! こっちに来なさい!?」
 




