……あっ(察し)
「ん゛っ?!」
信徒の祈りを聞き届けて、現れたとは思えない声が、女神アレクサンドラから飛び出す。
(……今、『ん゛?!』とか言わなかったか? 『ん゛?!』って?)
「……我が熱心な僕、メルトゥイユよ」
彼女を崇める宗派の祭器、聖鈴の音色にも似た涼やかな声で、女神は信徒に話しかける。
「アレクサンドラ様……」女神の降臨に法悦の色を顔に浮かべる彼女。
しかし女神に謁する彼女にかけられる、その御言葉は――残酷極まりない……と言うか残念なもの。
「……い、今……貴女は、私に……なんと言いました……か?」(んん?)
一瞬、女神に問いかけられた内容が、理解できないといった表情を浮かべて見せた彼女だったが――少し思案。
女神の背中側を指さし「信仰の敵」とだけ、簡潔に伝えた。
引き攣る顔で背後を恐る恐る振り返る女神。
先ほどの慈しみの表情は、顔から飛び散るように消え失せ――
「ひっ?!」再び発せられる、女神らしからぬ声。
「アレクサンドラ様! 邪悪な竜を倒すためであれば! この身を投げ打ち! 及ばずながら、お手伝いをさせて頂きたいと存じます! どうか私を! 貴女様の住まう聖なる野へと……どうか! お導き下さいませ!」
殉教の覚悟までを腹に決めた彼女は、祈りの際に傍らに置いた、先端に5枚の鍔が取り付けられた鎚矛と盾を手に、戦いの構えを見せる。
「やれやれ……。やあっと始まるのかよ。どぉれ? オレらも、ぼちぼち……もののぐの支度しちまおうぜ?」
のそのそと。武具を用意し始めるオークの娘たち。
周囲の様子を余所に、自身の背後に立っていたネルと顔を会わせた女神は――蛇に睨まれた蛙か(ここは龍に睨まれた女神とでも、するべきところか?)、石の彫像か何かのように固まって、身動きひとつ、取れないかのよう。




